世界にひとつだけの本
2017.01.24
以前から、小さな願いをひとつ持っています。
この世を去るまでに、本を一冊書くことです。
別に「○○賞をとりたい」とか、「△△賞を受賞したい」とか、だいそれたことを考えている訳ではありません。
心にあるものを形あるものとして残したいという、ただそれだけです。
「じゃー、心に何があるんだ」、「何を書きたいんだ」と問われるでしょうが、今の小生には、これといったものはありません。それでも、いつの日にか一冊の本として残したいという思いを、強く抱いています。
「人は誰でも、1冊の本は書ける」と言う人がいます。
出版に値するレベルなのか、本として売れるかどうか、といったことでは、もちろんありません。
順風満帆な人生というものは、なかなか無いと思います。誰しも大なり小なり、波瀾万丈な人生を歩んでいるものと思います。そのような歩みを、自らの手で「自分史」として書き記す、あるいはアレンジしながら「私小説」風に仕上げる、そのような意味合いだと理解しています。
確かに現代は、「自費出版」ブームだと聞いたことがあります。
という小生も、本といえる代物ではありませんが、以前、小冊子を作ったことがあります。
26歳の時です。
結婚式の記念品の一つとして、当日、出席された方々にその冊子をお配りしました。家内との出会い、結婚にいたる歩み、そして結婚への思いなどを、心の赴くままに綴りました。改めて読み直すと、稚拙で肩肘(かたひじ)が張った文章になっていて、本当に恥ずかしい限りなのですが、若きしの我が身を振り返り、何か懐かしい気もします。
小冊子の題は、「ぶどうの枝」です。
題字は、職場の隣の席に座っていた女性の方に、揮毫(きごう)していただきました。この方は、その当時から北陸書道院で活躍されており、70歳を過ぎられた現在も、書道・茶道の分野などで頑張っておられます。
ただ、余りにも達筆過ぎたのか、「ぶどうの枝(えだ)」を「ぶどうの杖(つえ)」と呼ぶ人が多く、苦笑したものです。
印刷と製本は、地元の北日本印刷株式会社さんにお願いしました。限られた予算にもかかわらず、立派な小冊子に仕上げてくださいました。
表紙と裏表紙は、朱色の上品な和紙。紫色の和綴じ(とじ)で、ひと針ひと針しっかり留められていました。約35年前のその当時、県内には和綴じを出来る職人がほとんどおらず、苦労したと聞きました。
わずか30ページ足らずの小冊子。200冊製本しました。
「お前の本など、誰が読むのか」と言われそうですが、大変ありがたいことに多くの方々に喜んでいただき、初め作成した200冊は、数カ月でなくなりました。改めて100冊増刷しましたが、それらの本も数冊しか、手元には残っていません。
これらは、子供たちへの贈物のつもりで残しています。(おそらく子供たちは、読んでくれることはないでしょうが……)
女優・木村多江さんが、朗読を続けている人気の番組あります。
「Sound Library ~ 世界にひとつだけの本」です。FMとやまで、日曜日の夜に放送されています。
一人の女性の日記風の物語を、木村多江さんがぬくもりのある静かな声で朗読している、この番組。バックに流れる音楽とうまくマッチしていて、聴いているだけで癒されます。なぜか、主人公の月原加奈子と木村多江さんが重なって聴こえてきます。
月原加奈子は、旅行会社勤務の38歳、OL。日常の人々との関わりの中で起きる、喜びや悲しみ、ちょっとした気づき。そのような心の機微を、たったひとつしかない人生として丁寧に描かれています。
いつも「世界にひとつだけの本」の世界に、引き込まれています。
人に読んでもらおうとは思っていません。
でも、自己満足かもしれませんが、いつの日にか形あるものとして、一冊の本を書き上げたいと願っています。
どこにもない「世界にひとつだけの本」として……。(O)