啓翁桜
2017.02.01
ここ冨山は、まだ一面の銀世界。
1年で、もっとも寒さの厳しいこの時期。春のきざしは、どこにも感じられません。
しかしながら、母がいる実家では、ひと足早く春の訪れを告げる桜が咲いています。
啓翁桜(けいおうざくら)です。
この桜、ひとり暮らしをしている母に、先日届けたものです。
昨年1月、初めて啓翁桜を買いました。
山田村の生産者の方々が、富山駅で直売していたものです。母のもとに持参し、さっそく大きな花瓶に生け、茶の間の角(すみ)に飾りました。
はじめは枝だけが目立った、この桜。固いつぼみが徐々に膨らみ、一輪、二輪と薄紅色の花びらを着けはじめます。みごとなまでに咲き揃った満開の時は、壮観なものがありました。
可憐な花びらが散った後も、みずみずしい薄緑色の葉が生い茂り、しばらくの間、葉桜を楽しむことが出来ました。
炬燵に入って、満開の桜やライトグリーンの葉桜を楽しむのも、なかなか風情があります。
認知症になっている母。
この啓翁桜を、母は大変喜んでくれました。寒さの厳しい真冬に、美しい花を咲かせる啓翁桜。その美しさもさることながら、日々少しずつ移ろいを見せるその姿に、言葉に言い尽くせない喜びを感じてくれたようでした。
そのような母の喜ぶ姿をみたくて、今年も啓翁桜を買い求めました。
昨年買わせてもらった山田村の啓翁桜は、残念ながらすでに品切れになっていました。
親しくしている花屋さんにお願いして、啓翁桜を取寄せてもらいました。届いた啓翁桜は、山形県産のものでした。知りませんでしたが、啓翁桜の本場は山形県だそうです。
最近、作家・落合恵子さんの本を読みました。
「母に歌う子守唄 その後 わたしの介護日誌」(朝日文庫)です。
NHKラジオから時々流れてくる、落合恵子さんの落ち着きのある声と語り口。何とも言えない、その人柄に魅せられて、手にしたこの本。目の前に母親の介護という、避けて通れない課題を抱えている小生にとって、まさに「バイブル」というべき本でした。
この本は、落合恵子さんのお母さんがパーキンソン病を発病し、さらにアルツハイマーを併発し、多くの方に支えられながら、7年間にわたって自宅で介護を続け、84歳で見送るまでの体験を記したものです。
介護に関するノウハウ本は、本屋に溢れています。
しかしながら、実際に介護を体験した人の本、特に介護者の飾らない心情、赤裸々な思いを綴った本は、意外と少ないのではないでしょうか。
本の底流に流れている、落合恵子さんの温かさと深さ。
本当に、多くの事を教えていただきました
今後も、母の介護の進み方に合わせて、幾度となくこの本を読ませてもらうことになると思います。
とても落合恵子さんのようにはできませんが、少しでも母が喜んでくれる「目に見えない啓翁桜」を、今日も届けたいと思います。(O)