幻の名器・ストラディヴァリウス「デュランティ」
2014.10.15
20日に、千住真理子さんのヴァイオリンリサイタルが高岡文化ホールで開かれます。
千住真理子さんのリサイタルを聞くのは、今回が2回目。
前回は、2012年11月に県民会館で開かれた「アフタヌーン・スペシャルコンサート」。その時の曲目は、クライスラーの「愛の悲しみ」やサラサーテの「ツィゴイヌルワイゼン」など、小品5曲。クラシック音楽は、もとより門外漢な私ですが、あの運命的な出会いをした、幻の名器ストラディヴァリウス「デュランティ」の音色を聴けただけで、もう十分満足でした。
千住博氏、千住明氏、そして千住真理子さんと、有名な天才3兄弟。
長男の千住博氏は、東京芸大大学院を卒業され、国際的に活躍する日本画家。昨年まで、京都造形芸術大学の学長をされ、滝(ウォーターフォール)の絵がとても印象的です。
次男の千住明氏は、慶応大学工学部を中退して、東京芸大作曲科に入り直したという、異色の作曲家。ポピュラーからクラシックまで、幅広くジャンルを超えて作曲され、現在日本で最も注目される作曲家です。以前、NHK・Eテレの「日曜美術館」の司会をされていて、感性が豊かなうえに、飾らない人柄で、森田美由紀アナとの息もピッタシ。好感度、抜群でした。
千住真理子さんは、いうまでもなく日本を代表する世界的なヴァイオリニスト。
パンフレットによると、「2歳半よりヴァイオリンを始める。全日本学生音楽コンクール小学校の部全国1位。NHK交響楽団と共演し12歳でデビュー。日本音楽コンクールに最年少で優勝。パガニーニ国際音楽コンクールに最年少で入賞。1993年文化庁『芸術作品賞』、1999年、ニューヨーク・カーネギーホールでソロリサイタルを開き、大成功を収める。2002年秋、ストラディヴァリウス『デュランティ』との運命的な出会いを果たし、話題となる」とあります。
千住真理子さんが今日あるのは、母・文子さんの存在が大きかったようです。
詳しくは、文子さんの著書「千住家の教育白書」(新潮文庫)に記されています。超エリート家族の、子育てハウツー本かと軽い気持ちで手にしましたが、読み進むうちに、ただただ圧倒され、この母、この父、この温かい家庭があって、あの3兄弟があることを教えていただきました。
真理子さんは、当然、先天的にヴァイオリニストとしての、豊かな天賦の資質を持って生まれてこられたと思います。しかし、輝かしい才能を発揮される裏には、生半可ではない、信じられないような努力が積み重ねられ、影では、母・文子さんがしっかりと支えておられます。特に、かの有名な江藤俊哉氏に師事し、超人的なレッスンを受ける描写は鬼気迫るものがあり、母子でいかに難局を乗り越えて来たのか、心打つものがあります。
その文子さんが、昨年6月に87歳で永眠されました。
文子さんのがんが見つかり、余命宣告を受けてから、母娘の往復書簡を始めます。34通にも及ぶ手紙の中で、生と死について、東北大震災について、芸術とはなにか、女性の幸福とは何か、互いに真摯に語り尽しています。「命の往復書簡」(文芸春秋社)として出版されていますが、誠実な二人に感動するとともに、互いの魂が美しく響きあい、幾度も目頭を熱くしながら読ませていただきました。
千住真理子さんの演奏を生で聴く機会は、滅多にないと思います。
それだけに、最初ローマ法王の手元にあったというデュランティの音色を、心静かに聴かせていただくつもりです。
最後に、心に残った真理子さんの父・鎮夫さんの言葉をご紹介させてもらいます。
「ダイヤモンドというのは磨かないと光らないんだよ。そして傷をたくさんつけるんだ。そうするときらきら輝きはじめる。無数の傷がダイヤモンドの価値になっていくんだ。磨いていないダイヤモンドが砂浜にあっても誰も気づかない。でも、毎日毎日ダイヤモンドだと信じて磨いていたら、いつの日か輝いて、誰かが必ず見つけてくれる」千住文子著「千住家の教育白書」(新潮文庫、278P)(O)