tel:076-445-2051
アクセス

新着情報

カテゴリ

なぜ私たちではなくあなたが?

2015.02.03

(枝)こでまり(花)スイートピー、ピンク・オレンジ・イエロー・ホワイト・紫(葉物)レザーファン

(枝)こでまり(花)スイートピー、ピンク・オレンジ・イエロー・ホワイト・紫(葉物)レザーファン

 ハンセン病という病気があります。

 天皇、皇后両陛下が先日、海外のハンセン病の元患者をお住まいである御所に招かれ、懇談されたことが、ニュースで流れていました。
  その中の一人、インドの代表は、懇談後の記者会見で、「両陛下は、私の話に静かに耳を傾けてくださいました。私は家族からも手を握ってもらえませんが、両陛下に握手をしていただき、その瞬間にいろいろな苦労や痛みが頭から消えました」と話していました。

  「ブラザー・サン シスター・ムーン」(監督:フランコ・ゼフィレッリ)という、とても素晴らしく、感動的な映画があります。
 「実在したイタリア、アッシジの聖フランチェスコの半生を描いたもので、物質的に恵まれた家に生まれたフランチェスコが、すべてを捨てて神とともに生きる道を歩み、最後にはローマ法王に謁見を許され、祝福を受ける」という内容です。
 映画のワンシーンに、多くの人がハンセン病を恐れ、避けているにもかかわらず、フランチェスコがハンセン病を病む人びとともに生活し、病人の傷を川の水で洗い、傷口から出てくる膿をぬぐう場面が出てきます。

 ハンセン病は、らい病とも言われ、隔離政策が取られていたなど、漠然と知っていたつもりでしたが、映画の中とはいえ、初めてハンセン病の人を見て、驚きを覚えるとともに、ハンセン病に苦しむ人々に誠心誠意尽くすフランチェスコの姿に感じるものがありました。

 神谷美恵子さんという方がおられました。

 精神科医で、津田塾大学の教授でもあった神谷さん。
 神谷さんの著書「生きがいについて」(みすず書房)を読んだのは、20歳の頃。昭和41年の初版から現在に至るまで、名著として名高いこの本。正直言って難解で、なかなか読み進めることが出来ず、時間を要しましたが、読了後、言い知れぬ深い感銘を受けました。
 以来、神谷さんの豊かな教養と人間性に魅せられ、「こころの旅」、「人間をみつめて」など、著書を買い求め、ほとんどの本を読み終えました。特にみすず書房から全集が発刊された時は、発行される隔月を心待ちにしたものです。

 確か秋篠宮妃殿下・紀子さまも、神谷美恵子さんの愛読者と聞いた覚えがあります。

 神谷さんは、津田塾大学2年生の時、叔父・金沢常雄さんに伴われてハンセン病療養所・多摩全生園を訪れ、初めてこの病いを知ったことが、人生の大きな転機となります。
 学生時代、当時死病ともいわれた結核に罹り、軽井沢で療養。結核は、完治しますが、自ら結核に苦しむ中で、医師としてハンセン病患者に奉仕しようとの思いが強まり、東京女子医学専門学校に入学。女子医専を卒業とともに、東京大学精神科に入局され、精神科医として活躍されます。

  ハンセン病患者に対する思いは変わらず、卒業前に岡山県のハンセン病療養所・長島愛生園を訪ね、その後、約10年間、妻として、2児の母として、家庭を守りながら、兵庫県芦屋から瀬戸内海の離島にある長島愛生園まで通い、精神科医として大きな足跡を残されます。

  神谷美恵子さんは、著書「生きがいについて」の中で、ハンセン病の国立療養所に入所している人を対象に精神医学的な調査をしたことを紹介しています。
 調査に応じた男性軽症患者の半数の人が、将来になんの希望もないと記したそうですが、その回答の中には、生きるよろこびを大いに感じさせるものもあったとのことです。同じ条件、同じ環境のなかにいても、ある人は生きがいを感じられなくて悩み、ある人は生きるよろこびにあふれています。

 この違いは、どこから来るのだろうかと……。

 神谷美恵子さんの代表的な詩がありますので、紹介させてもらいます。(O)

 「癩者に」

 光うしないたる眼うつろに

 肢うしないたる体担われて

 診察台にどさりと載せられたる癩者よ、

 私はあなたの前に首を垂れる。

 あなたは黙っている。

 かすかに微笑んでさえいる。

 ああしかし、その沈黙は、微笑みは

 長い戦いの後にかち得られたものだ。

 運命とすれすれに生きているあなたよ、

 のがれようとて放さぬその鉄の手に

 朝も昼も夜もつかまえられて、

 十年、二十年と生きてきたあなたよ。

 なぜ私たちではなくあなたが?

 あなたは代わって下さったのだ、

 代わって人としてあらゆるものを奪われ、

 地獄の責苦を悩み抜いて下さったのだ。

 許して下さい、癩者よ。

 浅く、かろく、生の海の面に浮かび漂うて、

 そこはかとなく神だの霊だのと、

 聞こえよき言葉をあやつる私たちを。

 かく心に叫びて首をたるれば、

 あなたはただ黙っている。

 そして痛ましくも歪められたる顔に、

 かすかなる微笑みさえ浮かべている。

Page Top