健さんからの手紙
2015.03.02
手紙を書くことが、めっきり減りました。
昨年、書いた手紙は、ハガキを含めても、20通前後だったと思います。
いつの間にか、筆不精になってしまいました。
自分で言うのもおかしいですが、以前はもう少し筆まめでした。事あるごとに、時間を余り置くことなく、感謝の思いや伝えたいことなどを、近況を添えながら、すぐにしたためたものです。
当然ながら、いただく手紙も少なくなりました。
当たり前の事ですが、書かない者に手紙やハガキが届くはずがありません。
生涯で一番手紙を書いたのは、間違いなく大学時代です。
テレビを持たない主義でしたので、結構時間の余裕があり、読書とともに、多くの方にこまめに手紙を書いていました。夕方、バイト帰りに、アパートの郵便受けを見るのが楽しみでした。そっと取っ手を開け、「来てないかナー」と便りを待っていたものです。
普段から、書きやすい万年筆を買い揃え、便箋も何種類か準備しています。
美術館や博物館に行くと、決まって印象に残った絵画や展示物の絵葉書を買い求めています。手元にある絵葉書は、もう200枚近くになっていると思います。その中から節目あるごとに、差し出す方に合ったもの、時節に沿ったものを使うように心掛けています。切手も、郵便局で記念切手や珍しい切手を買い求めており、たかが切手かもしれませんが、少しでも受け取った方が喜んでいただければと思って揃えています。
最近、高倉健さんの手紙を読む機会がありました。
近藤勝重著「健さんからの手紙」(幻冬舎)です。
もう健さんの新たな文章に触れる機会が無いと思っていただけに、とても嬉しかったです。健さんと、以前から親交があった毎日新聞社客員編集委員であり、早稲田大学大学院講師の近藤勝重さんとの手紙のやりとりを記したこの本。エッセイを書いた健さんとやや趣(おもむき)の異なる、生の息遣いが感じられました。
健さんが、筆まめな方だったことを初めて知りました。
近藤さんは、健さんから受け取った手紙について、こう語っています。
「健さんの手紙をもらった人ならおわかりのとおり、実にすっきりして、手入れの行き届いた文の庭のような印象を受けます。そして読み終えると、無駄のない端正な文面のせいでしょうか、すっとした気持ちになれるのです。潔癖さとか律義さとか、相通じるものがあるんです。映画も手紙もやっぱり健さんの世界なんです。」(173p-174p)
「健さんは有名、無名を問わず、人から受けた親切や、あるいは見ていてとても心が打たれたりすると、そのことを簡単に放っておける人ではありませんでした。想いをちゃんと丁寧に伝えるには手紙が一番だという、健さんなりの考えで文面をしたためていたのではないでしょうか。几帳面さと律義さ。ともに日本人が野放図な生き方の中で失いつつありますが、健さんの手紙は双方を併せて表現されたものに思われます」(帯)
「あなたへ」が、健さんの遺作映画となりました。
でも、既に次の映画の準備がかなり進んでいて、タイトルは「風に吹かれて」(仮題)だったとのこと、そして、健さんも準備に深くかかわっていたことを知り、驚きました。
健さん主演の映画、「風に吹かれて」を観たかったです。
健さんは生前、「風」に独特の想いを抱いていたそうで、よく「爽やかな風に吹かれたい」とも、語っていたそうです。
健さんがそうであったように、及ばずながら私も、手紙やハガキを通じて、爽やかな風、清々しい春風を少しでもお届けできるものでありたいと思います。(O)