赤ちゃんの泣き声が聞こえる美術館
2015.05.12
ゴールデンウイークに、ある美術館へ行って来ました。
「世界一かわいい美術館」です。
今年3月にオープンした、この美術館。地方紙で、初めてその存在を知り、不思議なネーミングといい、ずっと気にかかっていました。
あいの風鉄道の水橋駅前にあるという「世界一かわいい美術館」。
ナビを頼りにセットした目的地に着いても、それらしき建物が見当たりません。しばらく探してもわからず、TELしてみると、なんとすぐ傍の建物が美術館。
古民家を移築して造ったという、平屋の美術館。一見すると、ふつうの住宅にしか見えません。正面に掛けられた看板もやや小さく、分かりづらいもの。でも、この遠慮がちな看板こそが、この美術館に相応しいのかもしれません。
美術館に足を踏み入れて、ビックリ。
なぜか赤ちゃんの泣き声が、館内に響き渡っています。
静寂、静謐をもっとも大切にするはずの美術館。他の美術館では、まず考えられません。
そんなに多くの美術館に足を運んだわけではありませんが、赤ちゃんの泣き声はもちろんのこと、赤ちゃん連れの方を拝見したことも、一度もありません。
しかしながら、作品を鑑賞しはじめるとともに、そういったことが全く気にならなくなり、むしろ赤ちゃんの泣き声がなぜか会場にマッチしているような、不思議な感覚にさせられました。
とにかく、この美術館はすごい。
建物自体は、確かに「世界一」かわいいものかもしれませんが、その展示物の充実ぶりは驚きそのものです。
ある篤志家が、個人で蒐集(しゅうしゅう)してきた美術品、工芸品等を、多くの人に観てもらいたいと、美術館を新設したとのこと。観覧料は、無料です。
現在は、企画として「文化勲章受章者作品展」を開催中。
東山魁夷、奥村土牛、平山郁夫、杉山寧、奥田元宋、小林古径、小倉遊亀など、錚々たる作家の作品群です。約100点の展示作品ですが、ただただ圧倒されました。
素人考えですが、本来ならば、これらは山種美術館や根津美術館クラスの美術館に展示されるべき作品だと思います。
通常の美術館なら、作品と作品の間に一定の距離と空間があり、「間」を大切にしています。照明にもさまざまな工夫が施され、陳列の順番ひとつとっても、かなり用意周到な準備のうえで、配置されます。
失礼ながら、この美術館には余りそれらのものがありません。
知人宅の広間と廊下で、絵画を鑑賞しているような雰囲気があります。
近代的な美術館のように整った環境で作品に触れるのではなく、作品そのものと1対1で対峙して鑑賞するスタイルが、この美術館の特徴といえます。
信じられないほど、間近で一級品を鑑賞することができます。赤ちゃんの泣き声に代表されるように、変に肩肘を張ることもなく、家庭的な雰囲気の中でゆっくりと鑑賞できる良さがある気がします。
これらは、他に類がない素晴らしさと思います。
川合玉堂の「彩雨」は、以前から好きな絵です。
絵はがきを持っていましたが、直接鑑賞する機会はありませんでした。今回、まったく予期しないままに、突如目の前に現物が現れ、驚きとともに深い感激を受けました。
「元宋の紅」として有名な奥田元宋さん。大好きな作家の一人です。いつもの紅を基調とした晩秋の風景画ではなく、「水仙」という気風の違った作品に接し、新鮮なイメージを受けました。
一番感動を受けたのは、東山魁夷の「峰陽」です。
つたない私の言葉では、とても十分に表現することができません。
もしよろしければ、ご自分の目で鑑賞してみてください。(O)