「モイ、モイ」
2015.10.06
最近、よく見ているテレビ番組があります。
NHKBSプレミアムの「イッピン」と「美の壺」です。
特に「イッピン」は、全国各地の名も無き職人さんが、日常生活のために作った実用品を紹介しており、出来るだけ見るようにしています。
手作業で作られる木製品や漆器、ガラス製品、竹細工、和紙などのイッピン(逸品)。
伝統に裏付けされた工芸品を、ただ古くからの伝統を守るだけではなく、現代の生活スタイルに合わせて、新しい機能を付け加え、さらにモダンなデザインへとうまく調和させています。
イッピンで紹介される工芸品からは、素朴な素材をそのまま活かしつつも、時代にマッチした独創性やみずみずしい感性が感じられます。
「イッピン」という番組を通じて、全国にはこんなに多くの逸品があるのかと驚かされています。女性リポーターと職人との軽妙な会話や、わかりやすい科学分析により、少しずつ職人技が浮き彫りにされます。番組終了近くなると、新たな民芸品、工芸品に出会えた喜びと民芸品そのものから発せられる温かみに、いつの間にか魅せられています。
「上手物(じょうてもの)」という言葉があります。
エッセイスト・白洲正子さんの随筆を読み、初めてこの言葉を知りました。
反対語にあたる「下手物(げてもの)」という言葉は、日常使うことがあっても、「上手物」という言葉は今まで目にする事がなく、読み方すら分かりませんでした。意味は、「精巧につくられた高価な工芸品。出来や品質がよく、特に工芸品などで,一品制作の精密な作をいう」とあります。
上手物は、一流の芸術家や工芸作家が創作した美術品や工芸品といったところでしょうか。あくまでも一品限りの芸術品であり、優れた作品は美術館や博物館で陳列され、鑑賞される対象となります。
小生、相変わらず美術品が好きで、時間があるたびに、美術館などに通っています。学術的なことや難しい理論などは、正直いって分かりません。ただ、多くの展示品の中で、心にとまる作品が一品でもあれば、もうそれだけで十分満足です。作品と1対1で正面から真剣に向き合い、何か心に感じ得るものが一つでも見出されば、足を運んだ甲斐があったと思っています。
「イッピン」で扱われる商品は、上手物というより、民芸品です。
「民芸」といえば、柳宗悦(やなぎ むねよし)さん。柳宗悦さんは、日本が機械化、効率化を目指し、積極的に近代化を進めている中にあって、手仕事が軽く扱われ、廃れていくことに警鐘を鳴らし、民芸品の大切さを改めて訴えた人として有名です。
古くから地域に根ざし、実用品として日々使う楽しみがある民芸品。
作った職人に何のてらいもないだけに、素朴な風格といったものを感じることもあります。使い込めば使い込むほど、美しさを増す気がします。
以前、沖縄を旅行した時に、「八重山ミンサー織り」のブックカバーをホテルの売店で買ったことがあります。手触りが良く、何とも言えない風情があり、すっかり気に入りました。使い込むうちに、さらに味わいが増し、数年後メーカーからまとめて購入しました。文庫本を終読するたびにブックカバーを取替え、ささやかな喜びを楽しんでいます。
作り手の温もりが感じられ、作り手と使い手とがキャッチボールできる民芸品。
高価な民芸品を購入することは、なかなか出来ません。
でも、珍しいちょっとした民芸品を1個ずつでも買揃えたいと思います。飾って鑑賞するのではなく、職人が丹精込めて作られた品を使わせていただき、その素晴らしさ、その良さを味わいたいものです。
最近、「モイ、モイ」という言葉に出会いました。
カンボジア語で、「ゆっくり、のんびり」という意味だそうです。女優・杏さんの著書「杏のふむふむ」(ちくま文庫)の中で、紹介されていました。なんとなく語呂が良く、親しみを覚える言葉です。
どこか杏さんが放つオーラと似ている気がして、心に残っています。
「モイ、モイ」
ゆっくり、のんびりとした豊かな暮らしをするうえで、ちょっとした「イッピン」を手元に置くことは、生活の良きアクセントになる気がします。
そのような「あなただけのイッピン」を、お持ちでしょうか。(O)