蛍狩り
2016.07.05
ポッ、ポッ、と優しい光が、夜空に浮かんでいます。
わずか2匹だけですが、蛍が舞っています。我が家の庭で蛍を見るのは、本当に久しぶりです。以前見たのは、確か5~6年前だったと思います。
不思議なものです。あの淡い光を見つめていると、神秘的な思いにさせられます。なぜか、悲しみに満ちた哀惜の情すら感じてしまいます。
水路の整備や河川改修が進み、水田に農薬が散布されている今日。
蛍の乱舞を見ることは、ごく一部の地域を除いて、残念ながら少なくなったようです。現在住んでいる市街地に近いA市はもちろんのこと、B市にある山深い実家の周辺ですら、イノシシやカモシカなどが出て困っている山間地にもかかわらず、まず蛍を見掛けることはなくなりました。
蛍の好物であるカワニナやタニシも、以前はたくさんいたのに、今はほとんど見なくなりました。
「蛍狩り」。
今の子供たちは、この言葉を知っているのでしょうか。聞いたことがないかもしれません。
蛍狩りを実際に体験したことのある子どもは、ごくわずかかもしれません。
小生の小学生の頃。
もう半世紀も前のことになりますが、七夕の時季になると、あちこちで見事なほどの、蛍の乱舞が見られたものです。夕暮れとともに、ほのかな蛍の光があちこちで点在しはじめ、とっぷりと日が暮れた頃には、漆黒の闇の中から素晴らしい光の舞いが浮かび上がってきました。
昼の間に、川辺に生い茂っている細長い竹を切っておき、夕食後、子供たちだけで集まり、竹で蛍を追いかけまわしたものです。虫かごのような立派なものがあるはずもなく、透明なビンを各自家から持ってきて、入口を紙でおおい、空気穴を開け、捕った蛍を一匹ずつ入れました。
蛍狩りとは、蛍を捕まえることではなく、本来は乱舞する姿を鑑賞して楽しむことを指すようです。
しかしながら、子供にそのようなことなど分かるはずもなく、ただ捕まえることに夢中になって飛び回っていました。
寝る時には、もちろん蛍を入れたビンを枕元に置いて寝ました。
真っ暗にすると、透明なビンから幻想的な光が放たれます。時には、蛍を自由にしてやろうと、部屋の中に放つこともありました。のびのびと蛍が舞っている姿に、子供ながら感じ入るものがありました。疲れとともにいつの間にか、心地良い眠りに着いたものです。
翌朝目覚めると、畳のあちこちに黒い点があります。
あの蛍たちです。もう動かなくなっていました。
子供ながらに、やってはいけないことをしてしまったという、自責の念にかられました。
あの蛍独特の匂いとともに、苦い思い出として、今も心に残っています。(O)