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森繁久彌さんのテヴィエ

2015.01.20

(花)オンシジューム、ゆり、トルコききょう、スイートピー(葉物)ドラセラ、ユーカリ

(花)オンシジューム、ゆり、トルコききょう、スイートピー(葉物)ドラセラ、ユーカリ

 生涯で、一度だけミュージカルを観たことがあります。
 森繁久彌さん主演の「屋根の上のヴァイオリン弾き」です。

  大学3年の冬だったことは、微かに覚えていましたが、ネットで確認したところ、その日は昭和53年12月26日でした。なぜ日まで特定できたのかというと、その日が最終公演日、千秋楽だったからです。

  東京・帝国劇場の「屋根の上のヴァイオリン弾き」は、今も根強い人気がありますが、その当時も大きな話題を集めていました。
 主演・テヴィエ役の森繁久彌さんは、まさに「はまり役」。大変な人気を博し、1967年の初演以来、ロングランを続け、記録を更新。時々、新聞の下段広告欄に、チケットの販売状況が掲載されていましたが、1日2回の公演分も含め、ほぼ完売状態。
 マスコミ各社も、森繁さんのテヴィエ役の好演ぶりを大きく取り上げていました。

  いつもの悪い癖で、「屋根の上のヴァイオリン弾き」を無性に観たくなり、最終日の前日、ダメもとで帝国劇場に電話してみました。
 係員曰く、チケットはS席もA席も完売で、当日売りのB席ならば若干あるとのこと。ただし、枚数に制限があるため、当日、チケット売り場に並んで購入できなくても、売切れ御免とのこと。

  12月26日。
 からっ風が吹く真っ暗の中、アパートを午前6時過ぎに出発。
 地下鉄・都営三田線の日比谷駅を降り、帝劇のチケット売り場に着くと、なんと既に並んでいる人が……。自分なりに早く出たつもりが、上には上が……。改めて、「屋根の上のヴァイオリン弾き」の人気の根強さを思い知らされました。都会特有のビル風が吹く中、外で待つこと2時間余り。何とかチケットを入手することが出来、万々歳。本当に嬉しかったです。

  席は、2階席の右側後方。
 ステージが遠く感じられ、大袈裟に言うと、斜め上から下をのぞき込むような感じ。
 それでも、席に着くと不思議なことに、帝国劇場の格調の高さや荘厳さまで伝わってきて、それだけで満たされた思いに。

  森繁久彌さんのテヴィエ、まさに圧巻でした。

 到底、言葉に言い尽くせない程の感動を受けました。もう35年以上も昔の事になりますが、その日のステージのことは今も鮮明に覚えています。

  どうしても見たいという強い願望はあったのですが、実をいうと、「屋根の上のヴァイオリン弾き」は、何の話なのかほとんど知りませんでした。
 かの有名な「サンライズ・サンセット」の歌が、このミュージカルのテーマソングであることすら知らず、ステージからこの曲が流れて来て、初めて驚くような有様。
 でも、無知な私にも十分理解できる内容でした。むしろ、変に予備知識がなく、白紙の状態で聴けたことが、良かったのかもしれません。

  物語は、帝政ロシア時代のとある村が舞台。
 牛乳屋テヴィエを中心に娘達の結婚話を描いたもので、最後はロシア人の迫害を受けて一家は村を去る、という悲劇的な物語ですが、ユーモラスなテヴィエのおかげで、ほのぼのとした雰囲気が満ちていました。

  その日の配役を確認すると、森繁久彌さんのほか、妻・淀かほる、長女・大空眞弓、次女・安奈淳、さらに谷啓、友竹正則、益田喜頓、安田伸さんなど、もう故人になられた方もおられますが、錚々たるメンバーが揃っています。

  ミュージカル終了後、記録的なロングランの千秋楽ということもあったためか、カーテンコール、カーテンコールの連続で、拍手が10分以上、鳴りやみませんでした。

 それからというもの、すっかり「屋根の上のヴァイオリン弾き」のファンに。
 さすがにミュージカルを観る機会はありませんでしたが、映画鑑賞をすることに。当時、都内には名画座という映画館が、各所にありました。古典的な名作を300円で鑑賞でき、高田馬場の早稲田松竹、飯田橋の佳作座、池袋の文芸座など、よく通ったものです。館内が古く、椅子も狭いといった難点がありましたが、貧乏学生にはもう十分。「屋根の上のヴァイオリン弾き」も、4、5回は観たと思います。ミュージカルもさることながら、映画の「屋根の上のヴァイオリン弾き」も、違った意味で素晴らしかったことを覚えています。

 
 18日の日曜日、高岡市にある「ミュゼふくおかカメラ館」に行って来ました。

 南砺市出身の写真家、安念余志子さんの写真展「光 のどけき」を見るためで、安念さんは富山県人として初めて、風景写真界の芥川賞ともいわれている、権威ある写真賞「前田真三賞」を受賞されたとのこと。
 写真展では、富山県内はじめ、青森、岐阜、長野、新潟、石川など、全国各地で撮影された風景写真が、数多く展示されていました。四季折々の美しい風景写真を、独自のタッチで撮影され、心洗われる思いで鑑賞させてもらいました。

  この頃、しみじみと思います。

 なるべく良いものを観よう。少しでも本物に触れようと。
 「屋根の上のヴァイオリン弾き」も、安念余志子さんの写真展も、私にとって少なからず心の琴線に触れるものがあり、今も心に響きわたっています。
 地上での生活が、後どれだけ残されているのか、知る由もありませんが、自然でもいい、音楽でもいい、美術でもいい、本でもいい、とにかく心に響く本物を大切にしたいと、日々思っています。(O)

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