ある青年の北陸新幹線開業
2015.03.24
北陸新幹線が、いよいよ開業しました。
「新幹線に乗ったよ」という声が、周りからも聞こえ始めています。残念ながら小生は、仕事上でもプライベートでも、当分新幹線に乗る機会はなさそうです。
それでも、富山駅が新しく立派になり、一部工事中とはいえ、駅周辺もかなり整備され、ウキウキと華やいだ気持ちになっています。
私と同様、富山駅の完成を待ちわびていたであろう、一人の青年がいます。
ただ、その青年の名前を知りません。
その青年と話したこともありません。
その青年は、白杖(はくじょう)の人、目の不自由な人です。富山大学の大学院生であることを、以前、北日本新聞に掲載されていて、初めて知りました。
その青年を、仮にH君と呼ばせてもらいます。
H君のことは、乗り降りする最寄りの駅が同じということもあり、かなり前から知っていました。今から思うと、大学入学時だったのでしょうか。朝夕、お母さんが電車で付き添っておられました。白い杖を持つH君の傍らで、座席に座っているお母さん。大学までの順路や危険個所の確認、そしてライトレールの乗り方などを覚えておられたのでしょうか。かなりの期間、お二人の姿を拝見していたように思いますが、いつの間にか、白い杖を頼りにひとり歩くH君を見るようになりました。
そのうち、新幹線開業にともない、富山駅を新しく建設するため、仮の駅舎が造られました。
仮駅舎は、やや離れた所にできたため、在来線から改札までの移動距離が、かなり延長されました。仕方がないとはいえ、目の不自由なH君にとっては、かなり負担があったことと思います。
しかも、新駅舎建設の進捗に合わせて、たびたび通路が変更されました。階段の設置場所が変更になったこともあります。H君の戸惑いは大きかったことと思います。何しろ月曜日の朝、富山駅に着くと、なんの前触れもなく、通路が大きく変更されていることがあるわけですから。晴眼者(この言葉は、あまり好きではありませんが…)ですら、驚きと戸惑いを覚えるのに、目の不自由なH君にとっては……。多くの係員が要所に立ち、アナウンスしているとはいえ、雑踏の中で、H君はきっと不安を覚えていたことと思います。
「だったら、おまえが付き添ってあげればいいじゃないか」「なぜ、手を貸してあげないんだ」といわれれば、それまでですが……。
通勤・通学時の人波に揉まれつつも、少しずつ慣れ、黄色い「視覚障がい者用タイル」のうえを白い杖を頼りに、しっかりと歩むH君の姿が見受けられました。
北陸新幹線が開業し、新富山駅になってからは、ライトレールが駅舎の中まで乗り入れるようになりました。
しかも、改札口からライトレールの乗降口まで、かなり近くなっています。
最近、H君の姿を見ていませんが、もう雨風や冬場の凍結にも心配する必要もありません。新しく便利になった通路にも慣れ、白い杖を頼りに、今日も安全に乗り降りしていることと思います。(O)