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白いタペストリー

2016.01.26

[花] ゆり(レクサス)、ラナンキュラス、麦、[枝] ねこ柳、[葉] ドラセナ、コンパクター

[花] ゆり(レクサス)、ラナンキュラス、麦、[枝] ねこ柳、[葉] ドラセナ、コンパクター

 諏訪内晶子さんの著書、「ヴァイオリンと翔る」(NHKライブラリー)を読み終えました。

 世界的に活躍をしているヴァイオリニストの諏訪内晶子さん。
 ご存知の方も多いと思いますが、諏訪内晶子さんは世界3大コンクールである、ベルギーのエリザベート王妃国際音楽コンクールで第2位、4年に1回開催のロシア・チャイコフスキー国際コンクールで、18歳、史上最年少で優勝という輝かしい経歴の演奏家です。

 著名な人ですので、名前は知っていましたが、今まで生演奏を聞く機会もなく、本を手にするのも今回が初めて。どなたか忘れましたが、この本を素晴らしい良書として紹介する方がいて、読んだ次第です。

 諏訪内さんが26歳の時に執筆したという、この本。
 語彙力が豊かで、文体も理路整然としており、多くのことを教えてもらいました。この若さで、きちんと自分の考えを持ち、文章として表現できることが驚きです。ヴァイオリンといい、文章力といい、神は諏訪内さんに最高の賜物を与えたのでしょうか。

 本の中では、数々の国際コンクールで輝かしい栄誉に浴するも、テクニックの最高峰のみを求めるのではなく、自分だけの音に仕上げるために、必死に向き合う姿が書かれています。そのために、作曲家が書き上げた譜面に秘められた、時代背景や思想、心情などを含めて深く読み取るとともに、音楽とは別に、人間として幅広く成長することを真摯に求める姿が記されています。

 文章の上手な方は、各分野におられますが、音楽界にも何人かおられます。
 知っているだけでも、指揮者では小澤征爾さん、岩城宏之さん、佐渡裕さんなど。ピアニストの中村紘子さん、ヴァイオリニストの千住真理子さんも有名です。N響関係では、コンサートマスターの篠崎史紀さん、オーボエ奏者の茂木大輔さん、元・第一ヴァイオリン奏者の鶴我裕子さんなど。

 主なものは読ませてもらっていますが、個人的には岩城宏之さんと鶴我裕子さんのエッセイが好きです。「バイオリニストに花束を」(中公文庫)などの著書がある鶴我さん。新刊本がなかなか出版されないのが、残念です。
 岩城さんは、既に故人となられましたが、洒脱で軽妙なタッチの文章が好きです。特に「九段坂から ― 棒ふりはかなりキケンな商売」(朝日文庫)は、赤裸々な岩城さんを知ることが出来、一番好きな本です。諏訪内さんの本に刺激されて、音楽関係の本が読みたくなり、「岩城音楽教室 ― 美を味わえる子どもに育てる」(知恵の森文庫)を読み始めています。久しぶりに懐かしい岩城宏之さんにお会いしているようで、いつもに増してウキウキしながら読み進めています。岩城宏之さんは、いい人ですね。

 この頃、人生はタペストリーではないか、と思う時があります。

 この地に生まれた時、一人ひとりに見えないが、1枚の白いタペストリーが与えられています。
 このタペストリーに生涯にわたって、毎日々々、一本ずつ幾度となく糸を通していきます。赤、黒、白、黄色など、糸は数多くあり、複雑に絡み合っていきます。時には、糸の太さも微妙に違います。
 いつの間にか、真っ白だった布地が、意識しないうちに少しずつ埋まっていきます。
 生きている間は、裏側しか見ることが許されず、途中は複雑怪奇で、何を作っているのか、自分でも皆目わからない。まるで、刺繍の裏側を見ているように……。
 それでも、ひと針、ひと針、心をこめて糸を通し続けます。
 そして最期に、初めて表側をみせてもらう時、いつのまにかきれいな作品に仕上がっています。
 「どうして自分だけが…」「なぜこのようなことばかりが起きるのか…」と悩み苦しみ、糸が複雑に絡み合い、多岐にわたればわたるほど、逆に表は立派に完成するようです。

 諏訪内晶子さんは、17歳でエリザベート王妃国際音楽コンクール2位、18歳でチャイコフスキー国際コンクール優勝という、若くして素晴らしい糸をタペストリーに紡いておられます。でも、芸術家として、日々悩み苦しみ、悶々とした中で、さらなる音の高嶺を求めて、日々糸を通しておられることと思います。

 すべての人にも、白いタペストリーが届いているはずです。
 一人ひとり、大きさも模様も異なっていても、どの作品も最高傑作に仕上がると思います。もとより諏訪内晶子さんとは比べる必要もありませんが、小生も倦むことなく、片時も休むことなく、糸を紡いでいきたいと思います。(O)

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